DX支援のポイント【第4回-流通(物流)業におけるDXの特徴】

2023年10月12日

■流通(物流)業とは

流通業とは、生産者と消費者をつなぐ仕事を行う業種であり、主に卸売業・小売業・倉庫業・運輸業によって成り立っています。
流通にはいくつかの側面があります。そのうちの一つは商品の売買を通して所有権が移動する商流であり、もう一つは物理的な商品の移動を意味する物流です。
その他、お金や情報の流れもあります。今回のブログでは物流について見ていくこととします。

  • 流通の側面とは

■物流の5大機能と情報システム

物流とは、「モノ」を生産者から消費者へ届けることですが、迅速かつタイムリーに届けるために、機能ごとにさまざまな仕組みが設けられています。
物流の機能には輸配送機能、保管機能、流通加工機能、包装機能、荷役機能があり、これらは物流の「5大機能」と言われています。
そして、近年の物流サービスの変化に対応するため、新たな機能として注目されているのが「情報システム」です。
主に倉庫管理システムと輸配送管理システムに代表される情報システムは、5大機能を有機的に結びつけることで、物流に正確・迅速さをもたらし、効率化や生産性の向上のためにも不可欠なものになっています。

■人手不足や環境問題などの課題が多い流通(物流)業

現在の物流業界は、人手不足が深刻化しています。その理由として、他業種と同様に少子高齢化によって働き手が不足していること、EC市場の成長に伴い配送件数が増えたこと、さらに不在時の再配達のために配送ルートが複雑になっていることなどがあげられます。
さらに、第3回で取り上げた建設・土木業と同じく、物流業でも2024年4月から時間外労働の罰則付き上限が厳格化されます。
そのため物流が滞ったり、輸送業者の売上・利益減少、ドライバーの収入減少につながったりする可能性があることも危惧されています。
これは「物流の2024年問題」といわれています。
また、物流業界においては、環境問題への配慮も大きな課題の一つになっています。
真っ先に思い浮かべるのは電気自動車や天然ガス車への転換ですが、中小・零細企業の割合が高い運輸業で導入を進めるのは難しいため、モーダル・シフト(自動車で行われている貨物輸送を環境負荷の小さい鉄道や船舶へ転換すること)や共同輸配送(同じ行先の複数企業の荷物を一緒にトラックやコンテナに積載し、共同で配送すること)、ラウンド・ユース(同じコンテナを往復で積荷し、コンテナの運用効率を上げること)など、荷主企業や倉庫業を含めたサプライチェーン全体で取り組むことが求められています。

■流通(物流)業の「現場における悩み」の具体例

多くの課題を抱える流通(物流)業においては、IT化に関する悩みとして、次のようなことがあげられます。

1.顧客利便性を高めて商機を逃さないようにするために、店舗・個別電話・コールセンター・インターネット・SNSなどのチャネルを複数用意するマルチチャネル化を進めてきましたが、かえって顧客情報や注文情報が分散し、管理に手間や時間がかかるようになってしまいました。
これを、各情報を一元管理してオムニチャネル化(各チャネルの情報を連携し、顧客の購買体験をシームレスにつなぐこと)することで解決し、スムーズに注文・購買できる体制を実現したいというニーズです。これにより、業務の効率化を図ってミスを減らし、さらなる顧客利便性につなげる効果が期待できます。

2.顧客が商品を購入しようとしたときに欠品していることのないよう、在庫を多めに持つようにしがちですが、それが過剰在庫になって、保管コストが余計にかかったり、生鮮品の場合はフードロスとなって環境に悪影響を与えたりすることにつながります。
過去の購入履歴や、天候・イベント情報といった各種情報を分析することで需要を正確に予測し、在庫の適正化を図りたいというニーズです。

3.小売店舗や個人宅などの配送先が増加し、日時指定などの配送メニューが多様化したことで、梱包・出荷・配送にかかる人員の手配や費用の負担が増加しています。
共同輸配送等の仕組みやAI等のIT技術を導入することで最適化し、これらの負担を軽減したいというニーズです。

■流通(物流)業における取組事例

流通においては、商流・物流などが複数企業をまたがる構造になっているため、サプライチェーン全体を見える化し、ソフトウェア・ハードウェア・業務プロセスの標準化を進めたうえで、機械化・デジタル化を進めることが必要です。

また、個々の企業においては、何から手をつけてよいのかわからない場合もあります。まずは解決したい課題を明確にしたうえで、機能面として機械化・デジタル化で実現したい姿を設定し、非機能面として実務のBPRをあわせて実施することが重要です。特に、業務の属人化が起きている業務から手をつける例が多いようです。

  • 注文受付に関する事例
    過去の注文履歴をもとに、定期リピート顧客に対して前回履歴をベースとして確認・変更する業務を自動化した例や、問い合わせのチャット応答と有人コールセンターをハイブリッド運用した例などがあげられます。
  • 在庫管理に関する事例
    過去の入出荷実績、顧客別の注文履歴(発注量・サイクル)等をベースとして、AIで需要予測を行い、さらに商品ごとの取扱可能期間・最低ロット・保管スペース等の各種パラメータをもとに在庫の適正化を図る例があげられます。
    また、倉庫内作業の機械化・省力化例として、荷下ろし作業や運搬作業などを自動で行うロボット技術を導入し、労務負担の削減や効率化につなげる事例も増えています。
  • 配送に関する事例
    前述の共同輸配送を実現するために、AIを用いて業界をまたいだ荷主企業の自動マッチングサービスが登場しています。
    また、ゴルフ場内や離島、山間地などにおけるドローンを用いた配送も実証実験が行われており、今後は、技術や法整備などの進展とともに実用化が進むと思われます。

■流通(物流)業に関する国の取組み

物流の2024年問題に対応するために、2023年6月に、荷主企業、物流事業者(運送・倉庫等)、一般消費者が協力して日本の物流を支えるための環境整備を目的とした「物流革新に向けた政策パッケージ」が決定されました。
また、経済産業省、農林水産省、国土交通省の連名で、発荷主事業者・着荷主事業者・物流事業者が早急に取り組むべき事項をまとめた「物流の適正化・生産性向上に向けた荷主事業者・物流事業者の取組に関するガイドライン」も公表されています。

政策パッケージの中では、物流の効率化を進める施策として、「物流DXの推進」が掲げられており、自動運転トラック・ドローン物流の実用化、自動配送ロボットに関する技術開発、自動倉庫や無人荷役機器等の導入推進といった取組みがあげられています。

 

株式会社シルバーウェア 藤枝 徹