金融機関が取引先の採用と離職防止を支援する方法

2023年09月04日

 経済産業省が「人材版伊藤レポート」「人材版伊藤レポート2.0」を発表したことにより、人事部門で「人的資本経営」がホットワードとなっています。
 「人的資本経営とは何か?」から金融機関による取引先支援の手法まで解説する『人的資本経営を理解し 取引先の人材課題解決をサポートするコース』より、取引先支援の概要をお届けします。

人手不足は理解しているが……


 中小企業は「売上が伸びない」「利益が十分に確保できず、新事業展開ができない」といった様々な悩みを抱えています。そして、その背景として「人材活用に適切に取り組めていない」という課題があることも少なくありません。
 帝国データバンクが発表した「令和3年度中⼩企業の経営⼒及び組織に関する調査研究報告書」によると、中小企業が直面する経営課題として約83%が「人材」を挙げています。しかし、経営者は総論で「ヒトは大事だ」と思っていても、実際にはどのように人材活用や人材育成をすればよいのか、理解できていないのが実情でしょう。

 

出所:帝国データバンク「令和3年度中⼩企業の経営⼒及び組織に関する調査研究報告書」より作成

 

金融機関による支援策は8つ


 金融機関は既に人材紹介を通じた経営支援を強化しており、今後もヒトに対する支援は加速するでしょう。一方、人材紹介業務で一定の成果をあげてきた中で、単に人の紹介にとどまり且つそれが目的化するなど、一般的な人材紹介の支援範囲にとどまっていることも現時点では少なくありません。
 金融機関による人材紹介は、副業プロ人材の活用も含め柔軟で強力なソリューションですが、中小企業が持続成長可能な企業へ変革していくための支援の一手段にすぎません。今後は、人材紹介による「外部からの人材採用」のみならず「既存従業員の育成」や「人材の定着・離職防止」といった人材戦略とその実行を総合的にサポートすることが必要でしょう。具体的には次の表をご覧ください。

 

出所:「人的資本経営を理解し 取引先の人材課題解決をサポートするコース」

 

① 経営課題と人材課題を把握する


 取引先の経営課題を明らかにすることが重要なことは言うまでもありません。この場合の課題とは、経営者の「目指したい未来(ありたい姿)」と「現状」とのギャップを指します。何があれば「目指したい未来」に近づけるのか、その道筋を明らかにすることとも言えます。

 

② 人材要件の定義設定を支援する


 経営課題や人材課題を把握できたら、次に、目指したい未来を「実現するために必要な人材要件」を定義する支援をしましょう。そのためには、取引先の「あるべき人材像」を理解し、人材像を可能な限り具体的にイメージしておくことが大切です。
 人材要件を定義する前に人材の採用・育成をすると、経営者の求める結果にならないことが多いため、支援をする際には注意が必要です。

 

③ 人材ギャップの把握と解消を支援する


 必要な人材が今、どれだけ社内にいるのか、いなければどれだけの人材を外部から採用するべきなのか、あるいは社内の人材を育成していけばよいのか、それらを把握することが「As is – To be ギャップの定量把握」です。 
 人材ギャップ解消施策の策定支援には、「配置転換・異動にともなうリスキリングの提案」「採用の提案」「業務の見直しとDXの提案」「アウトソーシングの提案」などがあります。金融機関が行っている人材紹介は「採用の提案」に当たります。

 金融機関によっては、④から下の工程は営業店ではなく本部が主導するところもあると思いますが、ひと通りの内容を把握し本部等と連携することにより、人材が定着・活躍するための環境や条件を整えることができ、より効果的な取引先支援につながるはずです。

 

人材課題解決のサポートは意外と簡単


 金融機関による取引先の人材課題解決サポートは、取り組み方や進め方を整理すると実はシンプルです。さらに金融機関は「企業の財務状況を正確に理解できていること」「企業のキーマンとの接点を有していること」「企業に寄り添った定着支援を実行できること」から、民間の人材紹介会社よりも優位性があると考えられます。
 企業の人材活用・人材戦略の実践を支援する「中小企業・小規模事業者人材活用ガイドライン」といったツールもでてきており、今後は営業店主導でできることも増えていくでしょう。

 

人的資本経営を理解し 取引先の人材課題解決をサポートするコース