■DXをめぐる失敗事例
これまで、日本や世界でDXをめぐってさまざまな取組みがなされてきていますが、すべてが成功しているわけではありません。今回は5つの失敗事例から、どうすればよかったのかという教訓を導き出していきたいと思います。
社内全体を巻き込めず失敗をした事例
【失敗の要因】
・戦略的な焦点を設定せず、多くの分野に手を広げすぎた。
・プロジェクトの推進中に社内で軋轢が生じ、各部門の協力を得られなかった。
・プロジェクトチームの組成において、IT人材だけでなく、周囲を巻き込んだり、マネジメントを行ったりする多様な人材を揃えられなかった。
ステークホルダー間の対話不足で失敗をした事例
【失敗の要因】
・経営層と現場のビジョンに乖離が生じた。
・DX推進部門と他の部門の連携がなされず、目標の共有ができなかった。
・経営層からビジョンやロードマップの発信がなく、具体的な組織体制や会議体の変革がなされなかった。
戦略構築ができておらず失敗した事例
【失敗の要因】
・市場競争や経済情勢などの外的要因を十分に考慮しないままプロジェクトを進めた。
・目標が漠然としており、特定の商品やビジネスプロセスなど、具体的なアクションにつながるレベルまで対象が絞られていなかった。
本当にDXが必要かを考えずに失敗した事例
【失敗の要因】
・高度なシステムが本当に必要かどうか検討しないままシステムを導入してしまった。
・経営や推進側と現場の従業員との間で、DXに対する認識のズレがあった。
予算とシステムありきで考えてしまい失敗した事例
【失敗の要因】
・ベンダーやパッケージソフトの選定において、機能や拡張性よりも費用を優先してしまった。
・当初に予定していた機能を実現しようとして、カスタマイズの範囲が大きくなり、かえって追加費用が膨大になってしまった。
■DXで失敗する要因と失敗からの教訓
せっかくDX化に取り組んでも、多くのプロジェクトが失敗してしまう要因には、次のようなものがあります。
●目的やビジョンが不明確で、明確なゴールが設定されていない
他社がやっているから、流行っているから、というあいまいな理由でスタートし、自社にとっての目的やビジョンが不明確なままDX化を進めても、単なる機械やシステムの導入に終わってしまい、具体的な成果に結びつきません。
まずは、自社の実態や課題をきちんと把握したうえで、何をゴールとするのかを明確にすることが重要です。その際、ゴールへ至る過程や進捗を評価する指標を具体的に設定し、それを組織全体で共有し、誰が、何を、どのように、いくらで実行していくのかという戦略に落とし込んでいくことが必要です。
●経営者や従業員のマインドが旧態依然のままで、DXについての理解が浅い
DXとは何か、DXをすることでどのようなメリットがあるのか、といったことを経営者から従業員まで組織全体で共通認識を持っていなければ、それぞれ求めるものがちぐはぐになってしまいます。DXは省力化やコスト削減にとどまらず、業務の進め方や顧客にとっての価値を変革していくものだという組織全体のマインドセットが不可欠です。
●運用体制が不十分で、DX推進に必要な人材が揃えられていない
DXプロジェクトを成功させるためには、経営者のコミットメントのもと、実効性のある運用体制を整えることが必要です。コミュニケーションスキル、マネジメントスキル、他の部署を巻き込んでいくスキル、リスク管理スキル、計数管理スキル、そしてITスキル(開発だけでなく保守・管理を含め)を持った人材をそろえ、それぞれが、強い意思を持ちながら役割を発揮してDX化を進めていけるプロジェクトチームを組成することが必要です。これらの機能が不十分だと、他部署の協力が得られなかったり、プロジェクトが計画通りに進まず崩壊してしまったりします。社内の人材だけで必要な機能が揃えられない場合には、ITベンダーやコンサルタントの力を借りることも検討するとよいでしょう。
●業務とIT素材の間にミスマッチがあり、想定した効果が得られない
業務の中でシステム化されていない手作業のプロセスがあったり、過去から積み重ねられたレガシーシステムが残っていたりすると、新しいシステムにスムーズに移行できないことがあります。その結果、全体を変えようとして莫大な費用がかかることになったり、費用対効果が悪く、想定したような成果に結びつかなかったりすることがあります。
また、急速に発達・普及してきたスマホやAIといったシステム・技術を、そのまま自社の業務に取り入れようとしても、なかなかうまくいくものではありません。“システム・技術ありき”ではなく、それらを取り入れることでどのような価値を創造することができるかという発想で、顧客との対話を繰り返しながら進化させていくことが必要です。
●リスク計画が不十分で、途中で発生する予想外の事象に柔軟に対応できない
DXプロジェクトに限らず、企業運営にはリスクがつきものです。社会や消費者の動きに対して常にアンテナを張りながら、プロジェクト計画において、どのようなリスクが起こりうるかを洗い出しておき、それが起こったときに、どう対処するかを予め定めておくことが不可欠です。プロジェクトの途中で、投資資金が足りなくなってしまう、想定外の事象が起こってプロジェクトが暗礁に乗り上げる、といった事態にならないよう、経過をしっかりとモニターしながら、それぞれのリスクに対応していくことが必要です。
DXにおいては、トライ&エラーが可能となるようアジャイル開発の考え方で計画を立案し、資金計画やリスク計画も、それにあわせたものにしていく必要があります。
株式会社シルバーウェア 藤枝 徹