取引先のSDGs支援にあたり、最初に伝えるべき一言とは?

2023年01月17日

”何を“の前に考えること

 SDGs(持続可能な開発目標)の認知度は年々高まっています。中小企業においても、少なからずの経営者が「うちの会社でも、対応しなくてはいけないのかな?」と思い始めているようです。皆さんも、取引先から「”何を“したらいいですか?」と聞かれることが増えてきているのではないでしょうか?

 ただ、その問いにすぐに答えるのに代えて、「”何を“の前に、”何のために”を考え、明確化することが大事です」ということをお伝えすることを筆者は強くお勧めします。ここでいう”何のために”は、「自社にとって、SDGsに取り組む目的や意味は何か」です。この一言を伝えることで、経営者との深い対話を始めやすくなります。

 取引先からの要請への対応、社会的責任、ブランディング、新規事業開発、採用強化、等々、様々な目的や意味づけがあり得ますが、それは各社各様であってしかるべきです。ここに、唯一それだけが正しいという意味での正解はありません。
 ですから、皆さんには正解を求めるのではなく、その会社にとってベストな考え方、という意味での「最適解」を、経営者とともに考えるスタンスをとってほしいと思います。
 それは結局、その会社は何のために、どうなりたくて存在しているのか、という「あり方」をあらためて突き詰めて考えることになります。
 SDGsは言うまでもなく世界・地球・人類の目標ですが、そうした「大義」を、とってつけたように掲げたりSDGsロゴを表示するだけでは、何の説得力もありません。金融機関の行職員として、取引先の目指す「あり方」と、それを「大義」につなげる道筋を明確化する手助けをすることこそが重要です。

「SDGsメガネ分析」のススメ

 そこで必要になってくるのが、「SDGsメガネ分析」です。これは筆者が2018年から使っている造語ですが、企業のSDGs側面を抽出・分析するための手法です。一言でいえば、SDGs17ゴールの視点で企業を評価し棚卸することです。
 本格的に行えば、半年~1年がかりのコンサルティングとなりますが、簡易的な分析は、慣れれば比較的短時間でも可能です。分析の基本的な視点は以下の4つです。

 これらをしっかり分析することで、例えばSDGs宣言を作成する作業の厚みを増し、取り組む意義のある目標を設定できるだけでなく、事業性評価においても必要とされる有益な情報をアウトプットとして言語化・資料化することができます。

SDGsメガネ分析

ライフサイクル/サプライチェーン思考

 ”何のために”から”何を“に橋渡しをする上で重要なのが、ライフサイクル思考です。企業を主体に考えれば、サプライチェーン思考と言い換えてもよいでしょう(SDGsメガネ分析の4番目の項目です)。
 その会社の事業活動の上流(調達・仕入)、下流(出荷・販売後)、要するに、ゆりかごから墓場までを考えるのがライフサイクル思考で、上流・下流に関わっている事業者や消費者に着目すればサプライチェーン思考ということになります。どの地域でも地場産業として根付いている、建設業と印刷業を例題として、事業活動に伴う環境・社会へのインパクトを少し具体的に考えてみましょう。

<例題①:建設業>

 建設業は、ビル・住宅・工場・店舗等の建築物や、道路・橋梁・トンネル・ダム・堤防・港湾・空港・鉄道・下水道といった土木構造物をつくる産業です。建築物や土木構造物は、その建設に要する期間よりも、使用される期間の方が圧倒的に長いという特性があります。これをSDGsの観点でみれば、「目標11:住み続けられるまちづくりを」の土台づくりそのものといえます。
 また、社会・環境に対するインパクトは、資材・部材、施工、使用、補修、解体、廃棄といったライフサイクルの各段階で考える必要があります。これら全体に影響を与えるのが設計です。
 太陽光発電パネルを設置する等再生可能エネルギーを最大限活用し、建築物省エネ法の基準以上の省エネ型の建築物を設計・施工することで、使用段階でのエネルギー消費量・CO₂排出量を削減し、使用者の光熱費を抑えられます。これをSDGsの観点でみれば、「ゴール7:エネルギーをみんなに クリーンに」、「ゴール13:気候変動に具体的な対策を」に貢献することになります。
 また、資材・部材に再生資材等を積極的採用することで、資源循環を促進できます。これをSDGsの観点でみれば、「ゴール12:つくる責任 つかう責任」に貢献することになります。どのような環境配慮資材があるかは、例えば国のグリーン購入法基本方針の「公共工事」分野の特定調達品目で確認することができます。

<例題②:印刷業>

 印刷業は、書籍・雑誌・パンフレット・チラシ・ラベル・紙箱・段ボール箱等、紙製品に印刷する産業ですが、印刷の対象となる媒体は、紙以外にも、フィルム・基盤・建材等、様々な資材に広がっています。
 これをSDGsの観点でみれば、印刷物の需要分野に応じた貢献をしていることになります。例えば、書籍や教育図書を得意とする印刷会社であれば「ゴール4:質の高い教育をみんなに」、食品包装資材を得意とする印刷会社であれば「ゴール2:飢餓をゼロ」が該当するでしょう。
 他の業種も同じように、「自社の商品・サービスは、誰の・何の役に立っているのか」、と考えることができます。また、どの業種においても、より付加価値の高い製品を提供する工夫は「ゴール9:産業と技術革新の基盤をつくろう」に位置づけられます。
 印刷業のライフサイクルは、資機材・エネルギーの調達、営業・企画、デザイン、製版、印刷、製本・表面加工等の後工程、印刷製品の出荷、使用、廃棄といった段階に分けられます。このライフサイクル全般にわたる総合的な環境配慮の基準として、日本印刷産業連合会のグリーン基準グリーンプリンティング(GP)認定工場制度があります(GP認定とSDGs各ゴールの関係は、下図のように整理されます)。

グリーンプリンティング(GP)とSDGsの関係

出所:一般社団法人日本印刷産業連合会グリーンプリンティング認定事務局ホームページより

 印刷物を調達する事業者の側は、GP認定工場にグリーン基準を満たす印刷物を発注することで、「ゴール12:つくる責任つかう責任」の前段、つくる責任を果たすこととなるといえます。

最後に

 こうした分析作業は面倒なようですが、「いそがば回れ」です。スタート段階でしっかりとした分析を行わず、目標や活動を検討しても、いざ実行に移そうという段階で「これでいいのかな?」という疑問が解消できず、行動に移れない企業が多いと思われます。
 一方、取引先が目指す「あり方」を明確化し、SDGsメガネ分析をしっかり行い言語化・資料化しておけば、それがSDGs宣言の裏付けとなり、自信を持って行動に踏み出すことができるようになります。金融機関の行職員のみなさんには、そのプロセスをサポートするという役割意識をもって、SDGs宣言作成等、取引先のSDGs支援に当たっていただければと思います。

有限会社サステイナブル・デザイン 代表取締役

青山学院大学SDGs人材開発パートナーシップ研究所 客員研究員
西原 弘