「お金のブロックパズル」で考える、サステナブル経営と損益計算書の関係

2022年12月13日

サステナブル経営とは?

サステナブル経営とは何でしょうか? 「何をするのか」に着目すれば、SDGsに取り組むこと、非財務側面のESG要素の評価を高めること、CSR活動を行うこと、などとなります。

しかし、経営者は、そうした活動を「何のために」行わなければならないのでしょうか?SDGsやESGやCSRが、何らか社会的によいこと(ソーシャル・グッド)であるのに間違いはないにしても、それだけではあまりに表面的で、「わが社が取り組むべき理由」にはつながりません。

筆者は、サステナブル経営とは、一言で言えば「つぶれない会社づくり」であると考えています。自分の会社をつぶさないために取り組む。これ以上の自分事化はないと思いますが、いかがでしょう。

財務側面と非財務側面は別物?

サステナブル経営の具体的課題であるSDGsやESGやCSRは、主として非財務側面の評価軸と考えられていますが、財務側面には無関係なのでしょうか? 

これらも企業活動の一環として取り組まれている以上、決算書に表される財務側面と無関係というわけではありません。

ここでは、筆者がキャッシュフローコーチとして中小企業支援の現場で活用している「お金のブロックパズル」という手法を用いて、サステナブル経営が損益計算書のどこにどのように関係するのか、整理を試みてみました。図解と照らし合わせながら、以下の例を読んでください。

1.持続可能な調達への対応

サプライチェーンマネジメントの一環として、取引先選定において、SDGsやESGやCSRの観点を重視する「持続可能な調達」の動きが広まりつつあります。これらの課題に関する取引先からの要請への対応や調査への回答が、選ばれる理由にも、選ばれない理由にもなり得ます。言い換えると、これまでの取引を継続できるかできないか、新たな売上機会を開拓できるかできないか、という形で売上に影響する可能性があります。

2.CSV(Creating Shared Value:共有価値の創造)

CSVは「社会の問題をビジネスで解決する」という考え方です。かつて経営の神様と呼ばれた松下幸之助に「ぼくは、炊飯器や洗濯機や掃除機など、いろんな家庭電気器具をつくって、日本の婦人を台所から解放した」という言葉があります。これは現代風にいえば、「家電事業を通じて、SDGsの目標5(ジェンダー平等を達成し、すべての女性および女児の能力強化を行う)に貢献した」となるでしょう。

CSVの着眼点にもとづく、新しいビジネスモデルや商品・サービスの開発・事業化は、新規売上の拡大に寄与する可能性を秘めています。

3.脱炭素/カーボンニュートラル

脱炭素/カーボンニュートラルは、今や官民あげて取り組む大きな社会課題となっています。企業が省エネルギーに取り組み成果を上げれば、製造原価に含まれる燃料費・電力費や、販管費に含まれる光熱費の削減に寄与します(コスト削減)。

一方、省エネ型設備への更新や太陽光発電設備の導入等、設備投資を伴う省エネルギーや再生可能エネルギーの導入は、減価償却費またはリース料として製造原価または販管費に計上されます。したがって、コスト削減効果との比較で、投資回収期間がどのくらいになるかを具体的に計算し、見極めることが重要です。

4.採用・定着/働き方改革

労働人口が減少し続ける中、人材の確保は企業の存続において、従来以上に重要な経営課題となっています。その観点で、賃金水準・職場環境・勤務制度等の働き方改革は必須不可欠です。その原資を確保するうえで、上記のような取組みにより粗利を増加させることが重要です。また、学校教育段階でSDGs学習・活動に取り組んできた経験をもつ若い世代は、就職活動において、SDGsやESGの観点から企業を見るようになってきています。そのため、労働市場においても、サステナブル経営は選ばれる理由・選ばれない理由になりつつあります。

最後に

サステナブル経営は、必ずしも費用がかかる一方ではなく、売上や経費削減を通じて利益の増加につながる、採用・定着への好影響を与えるなどの機会となる可能性もあることを理解していただければと思います。

有限会社サステイナブル・デザイン 代表取締役

青山学院大学SDGs人材開発パートナーシップ研究所 客員研究員

西原 弘